"We have to learn about the conditions that set the problem in the course of trying to solve it."
(Noam Chomsky, 2008, On Phases, p.135)

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死を想う

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08 10

 もう母を亡くして七年です。4年前くらいの文章ですが、最近法事づいており思い出す機会があるもので昔のブログより再掲:


   *   *   *   *   *   *   *


 さて、久々に気が向いたので余談の始まりです。


 僕は死を想って生きたいと想うのです。自殺願望とかじゃないですよ、念のため(皆様のお蔭でまったく楽しい人生ですから自殺したいなんて一度足りとて思ったことはないはずですよ)。そういうことではなく、自分の生が有限であること、その先にいつか訪れる死のことをもっとしっかり意識的に積極的に考えながら生きたいと思います。そういう大事なことを最近ちょっと忘れ気味でしたが、『ブラックジャックによろしく』のがん編読んで大分触発されました。だってあの話あんまりに僕の体験とかぶる部分が大きいのですもの。いろいろ思い出します。


 私は大学三年のときに若くして母を亡くしましたが、その経験が僕のそういう考えを強く裏打ちしていると思います。


 いちいちブログなんぞでぐちぐちそのころのことを振り返るつもりはありませんから、僕や父の苦労とかのことは抜きにして一言で言ってしまえば、僕の母の死に方、悪くないと思うんです。がんは苦しい病気だが、交通事故とかの突発死と違って、患者がしっかり自分が病気であることを理解し、自分の死や残される家族と向き合う時間を十分に与えてくれる、そういう死に方です。


 母はがんになってから家族と食いたいもの色々食べた。僕に料理のごく初歩の手ほどきをした。父は洗濯とアイロンがけとごみの回収日を覚えた。父と二人で旅行も行った。僕と言語学の期末試験に打ち込んで三日連続徹夜でガストにこもった話とか、グリークラブでパーマスがどうのとか、それはそれはいろいろな話をした。父に毎晩お灸を手伝ってもらった。面と向かって言えないことをノートで会話したりとかもした。


 最高じゃないか? 僕も死ぬならああいう風に死にたい。そして友人や家族が死ぬときは、ああいう風にして見送りたい。


 まあ闘病生活を渡り歩いた一人息子が遺族として残された後に自己満足で自分に都合のいい記憶にすり替えてるだけかもしれませんがね、構わんさ、それで。
僕はああいう、母のような、言葉に満ちた死、人と人とのかかわりの中にある死を、羨み、肯定し、誇る。そのことに関して誰にも、自分にも、母にも、言い訳も罪悪感もない。たとえ僕が死の痛みを分かってあげられてなくても、つまり結局は一方的なエゴであっても、やはり僕は僕と母の別れ方の是非を僕自身に肯定する。


 死とは別れだ。別れは突然降りかかることも不幸にしてあるが、しかし時間を掛けて、意識的に、これでもかと考えながらやる別れもある。母と僕ら家族は後者をやり遂げたし、だから僕は、たとえそれがどんなにつらかろうと、選べるなら常に後者の、能動的な死に方、別れ方を選びたい。


 僕の意図する、「死を想う」とは、そういうことだ。半分もうまくいえないが、そういうことだ。


 自分が死んだり相手が死んだりして、僕たちは結局自分の全ての大切な人たちと別れる。いずれ。「今を楽しめ」とかいう容易い言葉で片付けてしまうには、このことはあまりに重過ぎる事実ではないだろうか。


 自分が死ぬときは、大切な人たちには、手紙を書いたり会って話したり、泣いたり、抱きしめてもらったり、握手をしたり、もしくは会っても少しも暗いそぶりも見せず冗談言って歌うたって過ごそう。きっとそのときどき、僕のやり方、死に方、別れ方は違うに違いない。


 大切な人が死ぬときは、もしもその人にとって僕が「別れ」に足る人間だと僕自身が信じられるなら、そばにいよう。彼または彼女が僕に対してしようとする、長かったり短かったりな、思い思いの「別れ」に参加しよう(それはときに「別れない」と誓い合う別れだったりもするだろう)。


 大して僕がその人にとって重要じゃないだろうと思うなら、彼または彼女が元気だったころの記憶を思い出したり忘れたり僕の側で勝手にしながら、でもとりあえず彼または彼女のやせ細った体やつやを失った顔などを勝手に見に行くのは、やめにしよう。


 僕は生きる。死にたくない。だって人生楽しいもの、これでもかと生に固執して生きてやるともさ。


 ただし死を想いながら。僕は別れのことを忘れないでいたい。


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