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2012/1/17


UCSD名誉教授でいらした故黒田成幸教授(2009年没。生成文法理論黎明期から日本語文法研究や形式言語理論研究において多大な功績を残した; http://ling.ucsd.edu/kuroda/obituary.html )は、彼の遺稿論文『数学と生成文法』(2009)において、文脈自由句構造言語と呼ばれる形式言語のある特定の部分言語を算術化し、その累和としてラマヌジャンのゼータ関数(ζ functions)を特徴づける、という一大構想をぶち上げています。少なくとも二次ゼータ関数までに関しては部分的な成功を収めたようです。数論や力学系の研究を始め数学や物理学の様々な分野で用いられているゼータ関数ですが、それがある抽象的なレベルで言語の形式構造にも関わりを持つことが示唆されているとしたらすごく面白いですよね。曰くこの研究の示唆するところは「ヒトの言語のありようも、数学的実在として、情報の構造とともに、奥深い数学的実在と本質的に全く無関係ではないかもしれない」ということだそうです。ヒト言語はヒトの生物学的所与であるという意味で文字通り自然物であるわけですが、その構造もやはり自然界の背後に抽象的に存在する数学的実在からの影響下にあるということが、とても奇妙な形で、そしてもしもその全貌が明らかにされたならば大変な知的好奇心を喚起するだろう形でさらなる証左を与えられていることになります。

僕は数学の知識が絶対的に不足しているため、目下この研究の意義を全く理解できておりません。言語学しかできない人間の限界をこうまざまざと見せつけられて悔しい限りなんですけど、でもいつかはしっかり黒田先生のお仕事を読み込めるようになりたいなあ。

※参考文献:
・黒田成幸(2009). “数学と生成文法—「説明的妥当性の彼方に」、そして言語の数学的実在論 福井直樹へ贈る一つのメルヘン.”  Sophia Linguistica 56:1-36.
・Kuroda, S.-Y. (1976). A topological study of phrase-structure languages. Information and Control 30.4: 307-379.

2011/11/1


お知らせです。明けて今日11/1、明治書院刊行の『日本語学』という雑誌の11月号が発売されます。今回は「言語と進化」に関する特集号になっています。

第三章として福井直樹先生との共著の解説文「言語を巡る「何」と「なぜ」―生成文法の視点から―」が収められております。

言語理論の歩んできた途の概説として、なるべく平易に書いたつもりですので、もしもご興味があればどうぞ。

Amazonなどでも購入可です: http://ow.ly/7ei1k

よろしければ!

2010/8/19


@rashita2 さんのブログ『R-style』で今朝「Evernote企画4th:第0回:「あなたのEvernote術教えて下さい!」企画」というエントリを目にしました。8月16日 ~ 8月22日 23:59:59というエントリー期間を設け、R-style読者から寄せられたEvernote活用術を共有することで情報交換の場としてくださるそうで、どんなアッと驚く使い方が寄せられてくるのか今から楽しみです。

思えばひょんなことから@goryugo さんのブログ『goryugo, addicted to Evernote』を拝読する機会に恵まれ、Evernoteに興味を持ち使い始めたのが今年の6月1日、以来主にこのお二方のブログやそこで紹介されている人々のEvernote活用法を聞きかじり見かじりしつつ自分なりに試行錯誤を重ねてきました。僕は2ヶ月強ということで全然使い始めてからの日が浅いんですけど、とはいえ上記ブログなどの力を借りてかなり好スタートを切れたつもりでいます。また、学生言語学者である僕は基本的に人と会っている以外の時間では一日中パソコンに向かいっぱなしで研究しているので、朝起きてから夜寝るまで常にEvernoteとともに生活をしていますから、短いながらも濃いお付き合いを通してそれなりにEvernote活用に関して自分なりの工夫もできてきたところでした。

さて、@rashita2 さんの仰る通りで、「自分が当たり前だと思っているやり方は案外他の人からみると意外な使い方だったりする」ということがEvernoteではよくあると思います。このことを僕は自分の過去の経験から知っていましたので、先達への恩返し、というわけではありませんが、前々から一度ブログを通して自分のEvernote使用法を公開し、他の皆々様(別に言語学研究者に限らず)に参考にしていただきたいと思っていました。今回@rashita2 さんブログからまさに渡りに船の企画をいただいたので、これを機会に一度現時点での僕のEvernote活用法をいくつかのポイントに分けて紹介したいと思います。書いてみたらかなりガッツリ長くなってしまったんですが、まあ部分部分でご参考になれば幸いです。

(「Evernoteってどういうソフト?」という疑問を持たれた方は、上記の『R-style』や『goryugo, addicted to Evernote』などのブログの初期のEvernoteエントリをたどるなどしてみてください。お手軽に使えてすごく便利なソフトですよ。ビジネスマンのみならず大学院生にもすごくおすすめなソフトです。以下は基本的なEvernoteの操作方法を理解されている方を対象に書きます。)

1: Evernoteを英単語や専門用語の単語帳として活用する

まずは僕のEvernoteの一番上5個のノートブックを紹介。以下のようになってます。

初めに、すでに他の方のブログなどでも盛んに紹介されていることなのですが一応確認を。Evernoteは基本的にノートブックを名前順に並べてしまうので、自分の好みのノートブック順を実現するためにはノートブックそれぞれの名前の先頭に数字をふるなどの工夫を施す必要があります。以下僕のノートブックそれぞれが「03.」などの数字をふられているのはこのためです。

まず「00.Inbox」は言わずもがなですが、Evernoteでクリップを取り込むデフォルトの保存先としてのみ機能しています。これも先達のお知恵を拝借した結果です。

さて、ここからまず一点目なんですが、僕はEvernoteを自分なりの「単語帳」として活用することを最近始めました。僕はアメリカに留学している大学院生として生活している以上、基本的に毎日授業に出たり先生や同僚とかとメールのやり取りをしたり論文を読み漁ったりして知識の増大を目指すわけですが、そうするといつだって知らないことがいっぱい出てくるんですね。まず英単語。論文特有の難しい言い回しに始まり、言語学や哲学など調べてる分野の専門用語およびその分野ごとの特異な意味・含意も知らなければいけないですし、またしゃべる準備をするためにはアクセントや発音のことも気にしなければいけない。またそりゃいっぱしの成人としてそれなり新聞やニュースも読みますし、言語学以外のことも時間をとって勉強しますが、そうするともう次から次へといろんなカテゴリーのいろんな用語が入力として頭に入ってきます。全部を一つ一つ覚えようと思ってもそうそうできるもんではありません。きっと半分以上次の日には忘れてたりするんでしょう。

さて、記憶補助装置としてのEvernoteの便利さの一つに、およそウェブ上のものなら、ないしクリップボードに取り込めるものなら、なんでもノートとして切り貼りしてスクラップ保存できるというのがありますよね。僕が上のように雑多な調べ物をする際には論文PDFのみならずオンライン辞書やWikipediaやGoogleやニュースヘッドラインや個々のブログ記事など、あらゆるソースにアクセスするわけなんですけど、用語を調べるたびにとりあえずそれぞれのソースをちゃちゃっとEvernoteに取り込んで保存しておく。僕の場合保存先はこの「01.単語帳」です。とりあえず今日の僕の「01.単語帳」ノートブックを開くと以下のようになりました。

表示されているノート例は”extricate”という単語をMac付属の英和辞書で引いた情報をそのままコピペしたものです。この他、例えばIvy League8校がちゃんと覚えきれてない、と思ったらそのWikipediaの項目を取り込み、また株のことを調べてたときにふとぐぐって見つけた「PER(株価収益率)」に関するどこぞのブログのわかりやすい説明を取り込み、また親族構造に関する系統的な知識をかなり正確に記憶できるらしい猿baboon(=ヒヒ)のことを認知科学の機関誌で読めばその該当箇所のテキストをコピペしてかつGoogle imageでbaboonの画像を取り込み、などなどをしておきます。各ノートのタイトルにはその用語のみを記しておきますと、後で見返すときにこれがそのまままるで単語帳のように使えます。要するにこのノートブックを開いたら各ノートの見出しタイトルを見て、「どういう意味だったかな」とか「どういう関連で調べたんだっけかな」ということを思い出すよう試みる。そしてノートを開いて答え合わせをする、という要領です。

ちなみに上の画像の二個目のノート「’     reconcile」ですが、これは前々から知ってたつもりだった”reconcile”(和解させる)の特にアクセント位置の把握をあやふやなままにしていたことに気づいたというときに、特にアクセント位置を確認する単語帳エントリーにするために置いたものです(アクセント関係の確認ノートも結構あります)。

何度か繰り返し確認するうちに「あ、この用語・単語はだいたい頭に入ったな」と思ったら、そのノートを「02.単語帳(覚えたかな?)」に移します。そしてまたしばらく後にこの「覚えたかな」リストも見返してみて、「もう大丈夫だろう」と記憶に自信が出てきた用語・単語に関してはもう「03.単語帳(覚えた!)」に移す、と。これは紙の単語帳で言えばそのページを破り捨てるのに当たるわけですな。とはいえまあ人間の記憶なんてあやふやなものですから、自信を持って「記憶完了」の太鼓判を押したものでも1ヶ月後・一年後には忘れてるかもしれません。だから02や03に入ってるノートも必要によってはやっぱりまた01.の現役の単語帳として再利用することもある、という感じでしょうか。また、時間がなくて・ないしオフライン作業中につき調べるのをとりあえず後回しにしたいものに関しては「05.知らない/いずれ調査」に一時保管しておく、というユルさも残しておくといいと思います。

ところで単語帳用途のEvernoteに関して一つ注意点が。Evernoteはノートブックを開くたびにその一番上のノートを自動的に開いてしまいます。僕はデフォルトの表示を「作成日時順」にしているので、この場合一番新しいノートが常にノートブックを開くたびに自動的に表示されてしまい、結果意図せずして答えを“カンニング”する形になっちゃうわけですね。まあそんな細かいことをあまり気にする必要もないのかもしれませんが、僕は「_______」というブランクのノートを常にこのノートブックの先頭に置くようにしています。Evernoteは各ノートの作成日時や更新日時も後々修正できるんですけど、この「_______」の作成日時を3010年辺りに設定しておけばとりあえずどんな新しいノートにも追い越されることはありません(笑)。

ちなみにこの作成日時修正による順番管理は色々なところで活躍します(たしか@goryugoさんのブログで読み知った方法だったかと思います)。この単語帳に限って言えば、何度も間違える用語・単語のノートは作成日時をいじって常にノートブックの上位に表示するようにしておく、などの用途が考えられます。というか僕はそうしてます。

このご時世ですから、英単語帳やビジネス用語確認なんてのはiPhoneの辞書アプリの付録機能だったりでこんなマニュアルなやり方よりも効率のいいやり方があるのかもしれません。しかし言語学の専門用語や和製英語や日常会話やスラングなど、ありとあらゆる英語や日本語のレジスターを一緒くたにサポートできる辞書なんていうのは端からありえないし、だからこそEvernoteの可塑性が活きてくると僕は思います。

こういう利用法でEvernoteから恩恵を受けるにつけ、もし例えば10年前、自分が大学受験をしているときとかにすでにEvernoteがあったらだいぶ勉強の効率が上がっただろうにと、思ってしまいます。「1931」→「満州事変」みたい歴史などの暗記物にも応用できるし、数学の公式を登録することもできた。便利そう! まあでもその頃は今よりずっとパソコンに向かう時間も少なかったわけですから、なんともいえないかもしれませんが。

ともあれ、人間一生学び続けるわけですし、その一助としてEvernoteを使ってみてはいかがでしょうか。

以上が僕の単語帳としてのEvernote利用法の説明になります。

2: 長期・短期・当日タスクリスト兼日記としてEvernoteを利用する

2なんつって仰々しく書きましたが、これはもう先達の皆々様がやっていらっしゃることとあまり代わり映えはしないと思います。大体タイトル見て内容はお分かりになるでしょう。3以降で言語学者としてのEvernoteの僕なりの用途についてご説明しますので、必要ない方はどうぞこの「2」は読み飛ばしてください。

僕の10番代のノートブック(の一部)は以下の通りです。

「12.近々やりたい」と「13.いつかやるかも」がいつも「あ、これをやりたいな」という思いつきを徒然なるままに書き留めておくノートブックです。優先順位や緊急度などでどちらに書き留めるかをその都度判断します。これで短期、長期のTo Do リストの完成ですな。その上で僕は「12.近々やりたい」を夜な夜な眺めながら、だいたい就寝前くらいに、翌日に成し遂げたいこと、「博論の2節の3パラグラフ目を書き足す」とか「Bittner and Hale 1996を半分読む」とか「☓☓大学准教授職への応募書類の3節を書く」とか「買い物する」とかいう実現可能な範囲で細かく区切った仕事リストを「10.今日やる!」に書き込んでおきます(場合によっては10−11時でこれをやる、と時間指定もする)。

当日はその「今日やる!」リストの仕事をなるべく組んだ予定通りにこなしていきます。仕事が終わるたびに「14.やった」ノートブックに完成したタスクのノートを移していきます。晴れて「今日やる!」ノートブックのノート数が0になったら今日のお仕事修了、ご苦労様、というわけです。「やった」ノートブックはこういうわけでどんどんノートの数が増えていきますけど、ここに表示される数字が大きくなると自分が(一つ一つは細かろうが)なんかいっぱい仕事してきたんだなあというのを数字の大きさで見れて「ムフフ」となります(笑)。

僕はちなみに「今日やる!」リストを作るときに既に”100817=”とか”100816.10-11=”というような自分なりの年月日の接頭辞を各ノートに付しておくようにしています。こうしておけば終了したタスクを「やった」ノートブックに移していくだけでその「やった」ノートブックが後で読み返せる簡便な日記にもなり一石二鳥。基本的に僕はこのタスクリスト用途では各ノートはタイトルしか書き込みませんが、とくに日記としての利用を充実させたければ、各ノート毎に必要なときにコメントを残しておけばいいでしょうね。

3: (言語学)研究活動の補助としてEvernoteを活用する

いよいよ僕が実際の研究活動のお供としてEvernoteを使っている場面について説明させていただきます。以下僕の20番代、本業の言語学関係のノートブック一覧です。

とりあえずノートブックごとの説明を。25番のついたノートブックの活用が結構肝なんで、とりあえずそれ以外のノートブックの説明から:

  • 「20.Diss To Do」は上記「12.近々やりたい」の言語学バージョンというか、とくに博士論文執筆に特化したタスクリストです。
  • 「20.問い」は研究を進めていく上で思いついた疑問点、研究課題等を書き留めていくノートブックです。日進月歩の生成文法理論ですが、そこではいつなんどきどういう部分にアイディアが出てくるか分かりません。自分が疑問に思ったことをメモの形で書き留めておくだけでも思わぬところで複数の問題間に連関を見出したりとかいうことが起こると思います。
  • 「21.分からない」は上記「05.知らない/いずれ調査」の言語学バージョンですな。
  • 「22.仮説」は先行研究で提案された仮説をメモしておくノートブック。PDFで論文を読んでいるときに分析や仮説を出てきたらとりあえずここにコピペしておく。
  • 「23.データ・経験則」は言語学上有意義なデータや経験則・一般化の類をとりあえず書き留めておくところです。下で多少詳しく説明しますが、例えば日本語では「誰が(太郎に)書いた手紙が見つかりましたか?」という疑問文には「田中さんが(太郎に)書いた手紙です」と答えてもいいし既知部分を省略して「田中さんです」と短く答えてもいいんですが、「誰が誰に書いた手紙が見つかりましたか?」という質問をされた場合「田中さんが中曽根さんに書いた手紙です」と全文回答は出来るんですが省略回答「*田中さんが中曽根さんにです」は出来ない、というデータをNishigauchi (1986)を読んでて見つけたら ((80), p.53)、とりあえずそれをコピペし、出典も含めてノートを作っておく、といったふうに(ちなみにこの西河内の経験則もなんかちょっと考えれば反例見つかりそうですけどね。だからそういう疑問点もノート内にメモしておく)。
  • 「29.言語学メモ」はまあ「その他」みたいな使い方ですな。上記カテゴリーに収まらないような言語学や認知科学関係のウェブ記事、LinguistListの学会情報などを取り込んでおきます。

さて、以上の基礎的ノートブックを踏まえた上で、以下僕なりの研究上のEvernote活用法です。

3.1: 現在進行中のプロジェクトごとにサブノートブックを作成、データやメモを管理する。

上に箇条書きにあげたノートブックは僕が言語学の研究を続けている限り存続し増えていくものですが、僕はこれに加えて目下取り組んでいる研究プロジェクトごとにサブのノートブックを作っています。それが25番台ですね。まあ企業秘密なんであまり中身は見せられませんが、今はadjunction(付加)の問題、coordination(等位接続、andとかorの問題ですね)、名詞句構造(nP, KP)の問題、WH疑問文の問題などにとりくんでいますんでそれぞれノートブックを用意しています(ハイフンなどで字下げをすることでノートブックに視覚的な階層性を持たせるというのもどなたかのブログで拝見した方法です)。そしてプロジェクトごとに上の「データ・経験則」や「仮説」などに蓄積しておいたデータのうち関連あるものをピックアップしてこちらのノートブックに割り振ります(というか実際これらの関心をもって論文とかを読み進めるわけですから、最初にノート作る時点で上記基盤カテゴリーを経由せずこれらのサブノートブックに直接割り振ることも多い)。そして自分のアイディアなんかもこのプロジェクトごとにどんどんメモの形で書き留めておく。するとノートブックワンクリックでプロジェクトそれぞれの進み具合が自分で概観できていい感じです。

僕は日が浅いのでそういう嬉しい事態には到達していないんですが、プロジェクトが完成したらもう独立のサブノートブックでノートを管理する必要がなくなるので、そうなったら晴れて中身をもとの20.-23.のノートブックに戻してやって(まあ戻す前に「WH-Q, finished」くらいのタグでも振ってやった後で)、ポチっとサブノートブックを削除するつもりです。そういうことが出来る日がくるのが楽しみです(笑)。そうしてまた新しいプロジェクトが出てきたらまたそのための新しいサブノートブックにノートを移していけばいいわけですからね。

ここで提案しているのは固定的な基盤ノートブックと比較的短期のプロジェクトごとのサブノートブックの二段構えの管理です。まあこんな「プロジェクトごとにサブノートブックを作る」というアイディアは当然先達の多くの方々が論じかつ実践されていることなので、大して新しいこともありませんね。しかしこのサブノートブックごとの整理に関してもっと言いたいことがあります。

3.2: △や◯などの大きめの見やすい記号文字をノートの接頭辞にしてノートを簡便にカテゴライズする。

「データ・経験則」や「仮説」などからプロジェクトごとに関連するノートをサブノートブックに移し替える、といいましたが、当然の帰結としてブック内にはそれら「データ」や「仮説」や「自分のアイディア」や「メモ」などの本来別物のカテゴリーに属するノートが乱立する状態になります。これは見やすくない。そこで僕が提案したいのが、△や◯などの大きめの見やすい記号文字をノートの接頭辞にしておく、という方法です。論より証拠、例えば僕のWH-Q(WH疑問文)のサブノートブック内の一部をご紹介すると:

という感じ。接頭辞なしのものは「データ・経験則」のカテゴリーに属するもので、例えば図の下から二番目に上で紹介した西河内のデータがありますな。で、他にある「△」の接頭辞が付いているのが僕が「仮説」のカテゴリーから引っ張ってきたノートです。この「△」のようにぱっと見て分かるような記号文字を一個ふるだけで、ざっとノート全体を見渡したときの見つけやすさが全然違ってくるんです。

この「△」の他にも、僕は自分のアイディアには「◯」を、そしてその中でも特に重要と思われるアイディアには「◎」を付けておく、などなど、結構いろんな記号接頭辞を駆使してデータ整理を図ってます。実際のアイディアは企業秘密なんで見せられないんですが、それにしてもこれらが付いているだけでかなり参照しやすくなりますよ。皆様も試してみてはいかがでしょう。

以下、僕がノート整理の上で使っている接頭辞一覧です:

  • 先行研究で提案された仮説につけるもの。接頭記号を微妙に変えて自分なりの三段階評価も実装しています。
    • 「△」:僕が割と肯定的に評価している仮説(場合によっては自分の分析で拝借するかもしれない仮説)。今はまだやってませんけど、特に実際に論文で拝借した仮説については「♤」や「▲」あたりの似て非なる記号で差異化を図るというようなことをいずれするかもしれません。
    • 「▽」:僕があまり気に入らない、疑わしいと思っている提案。メモってはおくけど自分の分析では使いたくないし、また機会があれば批判したいと思っている仮説。
    • 「▼」:僕が「こんなの絶対間違ってる」とかなり強い確信をいだいている仮説。それがあるせいで言語学が10年遅れてしまっているKayne1994のくそっくらえLinear Correspondence Axiom (LCA)なんかはもろこれですな。「▽」や「▼」のものに関してはそれぞれに批判するポイントをメモしておくと参照の便がいいですね。
  • 自分のアイディアメモにつけるもの:
    • 「◯」:自分のアイディアメモ。
    • 「◎」:自分のアイディアメモの中で特に重要なもの
    • 「①」、「②」、…など:同じノートブック内のアイディアメモのうち特に関連付けておさえておきたいメモに数字入りの◯をつかっておく。
    • 「※」:ボツにしたアイディア。
  • 「データ・経験則」につけるもの:
    • 無標:普通に先行研究から抜粋・コピペしたデータ・経験則
    • 「☆」:自分で発見したデータや観察。言語学では(というか言語学を含んだ自然科学研究一般では)先行研究で論じられていないデータや経験則・一般化を新しく報告するのも重要な仕事です。オリジナルのデータはそれ自身として価値がある。ということで特に自分発信の未発表のデータは差異化を図りましょう。発表したデータは「★」あたりに書き換えてもいいかもしれませんね。
  • 「問い」につけるもの:
    • 「♧」:プロジェクトに関連する問いに。
    • 「♣」:「♧」のうち特に重要なものに。
@goryugoさんがご自身の最近のブログで、自分自身が書いたメモとAmazon請求書スクラップなどを同列に同じノートブックに入れておくなんて「オレ様のナマの思い」ノートに失礼だ!というような趣旨のことをおっしゃっており、自分のメモと他所からの借り物や自動転送のノートを別々のノートブックで管理するという提案をされていました。僕は基本的にこれと同じ問題に直面していたわけなんですが、僕のプロジェクトごとのサブノートブック管理ではそういうわけにも行かない部分があり、結果編み出した方法が僕はこの接頭記号による管理でした。

3.3: 作成日時修正を駆使してノート間に優先順位をつける。

上の2:でも述べたとおりなんですが、作成日時順にノートを表示するよう設定した上で作成日時を修正することを通してノートの表示順を自分の好みの順番で固定することができます。例えば僕はなにはともあれ自分のアイディアをふくらませていくことが目下一番重要なので、ノートブックを開くとまず最初に「◯」とか「◎」のついたアイディアの一覧を先頭に表示するようにしています。例えば作成日時を「◯」は今より2年プラスの2012年にし、また「◎」は5年先の2017年にする、というように自分の中で一定のルールを作っておけば、それだけで

…(アイディアは企業秘密なんで割愛)

    

のような形で好みの表示に整理できます。

3.4: LaTeXのスクリプトもEvernoteで一括管理

僕は論文作成にLaTeXと呼ばれる組版エディタを愛用しています。LaTeXがMicrosoft Wordなどの糞ワープロソフトなんかに比べて如何に使い勝手がいいかという話はもういろんなところで議論され尽くされて久しいのでここでの説明は省きますが(文系のマカーにも使えるLaTeXなど参照。特に言語学者むけのパッケージ紹介などはThe LaTeX for linguistsなど参照)、さて、LaTeXでモノを書く以上はテキストはPDFなどからコピペするだけでは済まず、自分なりにTeXスクリプトの形で書き下ろす必要が出てきます。そこで提案したいのがTeXスクリプトとその出力のEvernoteによる一元管理です。例えば下の図の「(22)」以下樹形図が(a)-(c)と続きますが、これらは「—————」以下に示されているTeXスクリプト(もうあと20行くらい続く)で実現されます。このように完成形の画像をコピペした下にスクリプトをコピペしておけば、後々スクリプトを呼び出す際に非常に便利ですよ。

樹形図のみならず、「データ・経験則」の例文とかもLaTeXスクリプトを対応付けて保存しています。例えば僕の最近書いた論文“Phase cycles in service of projection-free syntax” (2010)から一個例文を紹介しますが、

のように、linguexパッケージやgb4eパッケージを使ったスクリプトもやはり書き次第コピペでちゃちゃっとEvernoteに取り込んでおいちゃう。それだけで後々かなり再掲が楽になります。樹形図や英語以外のデータ例文のTeXスクリプト作成はかなり骨の折れる作業なので、一度スクリプト書いたものは後々はなるべくコピペで済ませたいというのが人情。どうぞEvernoteで楽々管理をしてってください。

おわりに:考察・まとめ

以上、博士論文執筆中のいちアメリカ大学院生のEvernote術をまとめてみました。こうしてみると@rashita2さんや@goryugoさんのようなビジネスマンの用途とはだいぶ毛色が異なっているなと感じましたが、かといってEvernoteがサラリーマンのみのためのツールであるはずもないですし、また仕事が違っても応用できるアイディアもあるかもしれないので、参考になるかどうかは分からないんですがとりあえずエントリーしてみました。目に触れた方々のご参考になれば幸いです。

こうまとめてて気づいたことのひとつに、僕はなんだかノートブックの数がかなり多い、ということ。先達の皆々様が薦めていらっしゃるのはせいぜい10個とかそういう数なんですが、僕は上で言語学についてやったようなノートブック管理に加え、「ブログネタ調査中」や「社会・経済」、「科学哲学」、「文学」などのカテゴリーにもそれ用のノートブックを作って管理しているので、全部でノートブックは20個以上ありますね。まあ多いのかもしれないんですけど、しかし前回のEvernoteのバージョンアップでノートを取り込むたびにプルダウンメニューでノートブックを選択できるようになったのがかなり便利で、おかげさまで数が多くてもあまり煩雑な思いをしたことはありません。

それから僕はどうもタグを使うのが苦手で。@goryugoさんもたしかタグ付けめんどくさいということをブログでおっしゃっていたと思いますがホントそうで、ノートごとにいちいちちまちまとテキストを打ち込んでいく作業はかなりめんどくさいです。加えて、これはMacユーザー特有の事情でしょうが、少なくともOS X ver.10.5.8上で動かしている限りではタグ付けをするときのSpacesが一つに限られてしまうようで、例えばSpace 1でタグ付けしたあとでSpace 4で取り込んだ別のノートに新たにタグ付けを施そうとするとSpace 1に強制的に移動させられてしまいます。これが「イラッ!」とくるんですよねー。もしかしてSnow LeopardではもうこのへんのSpaces/Exposeの問題は解決しているのか? まあそれはともかく、Spaces横断してノート取り込みしまくる用途でEvernote使っているとどうもタグ付けはメンド臭くて、今はなるべくノートブックごとの管理だけで済ませています。しつこいようですがノートブック選択はノートごとのプルダウンメニューで楽々設定・変更可能で楽なんですよ。次のバージョンアップでタグ付けもプルダウンメニューつけるとかでもっと簡素化されないかなあと願ってやみません。

まあEvernoteの用途に正解はないというのはみなさんおっしゃっていることですし僕もそう思いますが、しかし僕個人の用途の利便性という観点で照らし合わせてみてもやはりところどころまだまだ改良の余地があるでしょう。この辺はぜひ『R-style』の「Evernote企画4th:第0回:「あなたのEvernote術教えて下さい!」企画」に投稿された皆々様の用途を参考にして詰めていきたいと思います。

それでは、読んでいただきましてありがとうございました。

2000/4/4


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