"We have to learn about the conditions that set the problem in the course of trying to solve it."
(Noam Chomsky, 2008, On Phases, p.135)

言語学の「新しい仕事」(覚書)

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言語学における価値ある新しい仕事というのは

(1) これまで十分に手を付けられていなかったissueがあることを示す
(2) (1)に対する具体的な解決を証拠付けて論理的に説得力のある形で示す
(3) (2)によって得られる、既存の枠組みの中で期待される効果(つまり(1)の解決)をしっかり果たせる、かつ既存の枠組みの別の場所に悪影響が出ないことを示す
(4) (2)でもってこれまで期待されていた(1)/(3)以上の追加のbenefitがあることを示す

という4つを満たす作業である。ここで、純粋にプレゼンテーションの問題として、(1)にはごく少数の(理想的には1つの)誰にでも通じる問題を設定するのが良い。

従来的な記述的な仕事はこの点(1)は誤らないから、その後でlabelingがどうのfeatureがどうのphaseがどうのcartographyがどうのと(2)以降にしょうもない提案が出てきてもまだ聞いていられる。一方、割と若い学生さんにありがちな、(1)にAもBもCも問題だ、とするのは得策ではない。できるだけ(1)の数を厳選して絞り、かつ広く問題の意義を理解してもらえるものにしたほうがいい。

また、「ミニマリズムをやりたい」という学生さん(にかぎらず先生方)にはさらに別のありがちな問題があって、(1)におよそ狭いChomskyan集団の外には通じるべくもないtheory-internalな問題を据えてしまうことがある。

(i) labeling理論下でCEDを出すにはどうすればいいか?
(ii) Mergeの枠組みではなくMERGEの枠組みでhead-adjunctionに準ずる操作を捉えるにはどうすればいいか?
(iii) MERGEの枠組みにおけるWorkspaceに語彙項目を足す操作は何か?
(iv) Left peripheryの中でなぜTOP*だけが複数レイヤーを構成できるのか?
(v) multiple spec constructionをlabeling failureから救う道具立て

なんていうのを色々聞いてきました。これらはまあ、ミニマリズムやMERGEや、テーマを限定したワークショップの中での発表の一つとしてはまあまだ機能するのかもしれないですが、こういうのは、Chomskyの最新の論文とかに親しんでいる”hard core minimalists”にはある程度は通じる問題設定であるとはいえ、一度そういう狭いminimalist campの外に持ってくと、そもそも「は?何が問題なの?theory-internalなnon-issueでしょそんなの」と問題設定の意義自体が通じないと思われます。(1)にこういうトピックを選んで発表している人(学生さんに限らずもちろん大御所の先生さんもいます)は、(1)の話を始めた時点で例えば日本の標準的な言語学関係イベントの聴衆の9割の関心を失うことになる。こういうのは避けたほうがいいと思うので、やはり(1)には広く誰にでも通じる問題設定をおく、あるいは理論内的問題設定であっても少なくともそれの意義を十分に自分のいる枠組み外の人にも通じる言い方で表現する努力が必要と思われます。

さらに別の問題として、こういうやり方は、これから言語学やりたいけど生成文法/ミニマリズムっての面白そうだな、ちょっと興味あるタイトルだから見てみよかな、くらいの気持ちで参加してくれる若い人たちの気心をいたずらにくじくことにもなりかねないと思う。本来大変魅力的かつ挑戦的な企てである生成文法/ミニマリズムを推していく上で、これは実にもったいないし、ただでさえこのままでは尻すぼみになっていってしまう予感バリバリなミニマリズムの将来を明るくすることでもない。だからやはりせめて(1)には気をつけましょう。

もちろん、(4)を意図して書いたであろう論文やプレゼンでも、(2)すら満足にやれてないのは問題外である上、(3)で実は甚大な問題をはらんでいるケースも多々見受けられます。当然気をつけましょう。

諸々全てこれは自戒の意味を込めての覚書です。本年もどうぞよろしくお願いします。


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